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The beauty in the loop-time, seasons, and connections.
2021.11.15

海と山に囲まれた風光明媚な鴨川の土地に新しく誕生したシニアサービスレジデンス。アメリカ・カリフォルニアのランドスケープデザイン事務所・SWAとのコラボレーションにより、ランドスケープデザインの要となる屋外モニュメントを設置しました。ランドスケープのデザインスキームである「敷地を取り囲む海・山々の重なり、視覚的・空間的に重なり合う地盤の高低差、周辺の環境に同化する時間の重なり」をアートに落としこむ、約1年半に渡るプロジェクトの全容をご紹介します。

Reserch and Insights

まずはモニュメントが置かれる空間の分析から始めました。

ウエルカムコートと呼ばれるエントランスは、背後に広がる山々と海を繋ぐ軸上の中心に位置します。アートの性格はその軸を反映したもの、アイキャッチとして存在感があり、また自然の美しさそのものを消さないものと定め、構想を進めました。

image: SWA Group

Art Direction

一方、入居者様が頻繁に行きかうメインガーデンには、ランドスケープに回遊性を与えるアートとして360度どこから眺めても絵になるような立体感に加え、ランドスケープの中心を決める求心的な造形が求められました。SWA・MFR・アーティストと対話を重ねながらデザインを検証しています。

image: SWA Group

Design Development

初期の模型です。

ウエルカムコートに置かれるアート「縁」は、額縁のように背後の山々を切り取るドーナッツ形を基調としました。ランドスケープの「重なり」をアートに落とし込むよう、フレーム形状から生まれる面の重なりをスタディしています。

メインガーデンに置かれるアート「輪」では、360度それぞれの角度からどう見えるのか、模型を用いて検証しています。

Design Fabrication

アトリエでの製作工程。宙に円を描くようにフレームを溶接し、フレームに巻き付けるように布地を張り込んだ後、FRP(樹脂)を乗せては削る工程を何百回と繰り返します。自由自在に変形するファブリックという素材の特性から生み出されたフォルムが、厚みを持った構造体へと変化していきます。なめらかな動きを感じる造形は、ファブリックだからこそ。

Developing Innovative Fabrication Strategy

海風が吹きあがる敷地の特性から、意匠的・構造的にバランスの取れた取付方法・補強が必要となり、構造計算を行いました。構造計算を進めるにあたって模型の3Dスキャンを行い、Rhinocerosを用いて3Dモデルを自社で作成しています。接合部の曲げ・せん断応力を計算し、強風に耐え得る構造体を検討しました。

Playing with Shadows

このプロジェクトで非常に重要な要素がライティングです。弊社は照明デザインを監修する立場として、照明計画に携わりました。まずは模型と3Dモデルを併用し、照明器具の数量・位置・角度を大まかに割り出します。CADへの落とし込みは3Dモデリングが無ければ実現できないため、高度な検証作業となります。

最終的には石台座のモックアップを作成し、夜間環境を再現した上でアートの取付角度・照明の位置関係を割り出しと、器具の首振り角度を実物で調整しました。駐車場側から・アプローチ正面・風除室側からとそれぞれの見え方に問題ないか、光の加減で陰影が作品に投影されているか、綿密に実験しています。

Myth of Lighting

ブルーモーメントにドーナッツのシルエットが浮かび上がります。昼中は背後の山々を切り取る額縁的な存在ですが、夜間では背景の存在が消え、夜空に浮かぶ三日月のようです。メインガーデンのアートは内部のホールと光で繋がり、ランドスケープと建築に視覚的な連続性を与えています。

Epilogue

最後にこのプロジェクトを振り返った時、「美の価値観を伝える」ということの重要性に気が付きました。ランドスケープデザインの根本にある「空間的・時間的な重なり」という文脈をアートを通じて表現し、伝えること。自然環境との重なり・時間の重なり・人と人との重なり。日常生活で当たり前に存在しているが故に気が付かない、美しく真に価値があるもの。その価値をアートがそっと語りかけ、入居者様に愛される存在になればと願っています。

Projects > Park Wellstate Kamogawa