中国・四国地方で初のヒルトンとなるヒルトン広島。瀬戸内を構成する「島々と海」が共存する世界感を表現しながら、この地の魅力をゲストへ伝えています。今回は大型作品の製作・取付はもちろんのこと、その意匠から手掛けたエントランスの立体レリーフ、チャペルのスクリーン、レストランのシーリングアートをご紹介します。
Case 1: エントランスロビーの立体レリーフ
正面エントランスから入って正面、目を引く横幅8mに渡る立体レリーフ。当初より瀬戸内の風景をモチーフとしたアートが求められており、この地を象徴する風景・宮島から瀬戸内一帯を俯瞰した風景をそのままアートに転換することを試みました。
海はひたすらトレーシング作業を進める一方、島々の表現をどうするか試行錯誤しました。採用したデザインは、宮島の3Dモデルから等高線を異なる間隔で作成し、一枚に合成。立ち表れた山並みの線を海に繋げ、性格の異なる線を一体化しました。
遠くの山並みが薄く、手前が濃く見えるように、実際の作品もレイヤーを多層化させて奥行きある風景を表現しています。素材に鉄の独自のテクスチャー感と柔らかさを活かし、遠くから見ると日本画に描かれた墨のような質感を再現しようと試みました。
合計すると350kgにもなる鉄板を6人がかりで持ち上げ施工しました。分割線がほぼわからないよう工夫しているため、一枚の板を削りだしたような重厚感があります。近くから見ると広島湾に浮かぶカキ筏(イカダ)が見えたり、ディテールにもこだわりました。目の前に置かれた盆栽との完璧なる調和は、ラッキーなことに偶然ですが、島々と海が構成する、瀬戸内の風景を感じていただければ幸いです。
Case 2: チャペルのアクリルスクリーン
チャペル空間のデザインコンセプトは響き渡る琴の音。広島県の伝統工芸である福山琴の裏面に施された「麻型彫り」をデザイン基調に、高さ5.5Mに渡るスクリーンを製作しました。福山琴の裏面に施されている細工は表面から見えませんが、よりよい音・響きを出すために加工されているものです。この音を空間全体に響かせるというのが、アートの物語です。
空間の意匠と調和させるため「麻型彫り」のデザインをそぎ落とし、ミニマルなグリッド形状へデザインを発展させました。音の振動で物体の表現が揺れるように、三角形のアクリルピースを自由な厚み・自由な三次曲面に成形することを考案しました。また全体数量の1/5にあたる分量を、ゴールドとシルバーに配色し、地元広島の箔押し業者の協力を仰ぎ、一枚一枚、手作業で箔押し作業を行っていただきました。照明効果と相まり、ミニマルな構造の中にキラリと光る伝統工芸が作品に奥行きを生んでいます。
「空間全体に琴の音が響き渡るようなイメージ」を具現化するため、約150枚のアクリルピースが自由に舞い上がるような構成を目指してデザインを進めていきます。約600個の三角形から150枚分をランダムに選び、配置・配色を行うには、ジェネレーティブデザインと呼ばれる手法・3D CADのプログラミングが適しています。「5 o’clock shadow」「5時過ぎのオジサンのヒゲ」と呼ばれるプログラミングコードを用い、ランダム性を導きました。
現場にて一枚一枚、ワイヤーでくくりながら施工しています。分割ラインを工夫することで、遠目からはw2900*h5400のスクリーンが一枚物で立ち上がったように見えます。昼間は天井から差し込むトップライトからアクリルピースがキラキラと反射。夜は伝統工芸の箔が浮かぶ上がる、印象的なチャペルになりました。
Case 3: レストランのシーリングアート
レストラン客席天井には、鳴門海峡の波紋をトレーシングし水のような抜け感が印象的なシーリングアートを設置しました。縦、横、そして「斜め」の三方向で織られたハイテク織物で作られています。
鳴門海峡の「うずしお」をイメージして、実際の波紋をトレーシングした形状を3種類用意し、3Dソフトでモデリングしていきます。レストラン入口正面に配置される特性から円形の形状を採用し、空間に中心性を与えると同時に軽やかなで心地良い空間を演出しようと試みました。
水面に浮かぶような水の泡のような抜け感を演出でき、軽く強度のある素材を検討した結果、F1などにも使用されている新素材の織物を採用しました。一般的に織物は縦と横の二方向の繊維組織で構成されたものですが、この素材は縦・横・「斜め」の三方向から構成され、数多くの工業用製品に用いられています。意匠・強度・重量すべてにマッチし、採用しました。
現場施工の様子。当社では全国様々な場所で施工を行うため、その都度現場に近い地元の工務店や施工会社さんなどにご協力いただき施工作業を行っています。丁寧な施工でアートが完成していきます。
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