「みなとみらい」駅に直結する複合業務施設・みなとみらいセンタービル(MCB)は、オフィスワーカーのみならず、近隣住人とのコミュニケーションを図る新たな公共性を育むべく2019年にリニューアルされました。 MCBの敷地内にはアクセスフリーな「リビングガーデン」と呼ばれるランドスケープが新設されると共に「賑わい軸」と呼ばれる動線が外部から建物内部を縦断し、人と都市が有機的に繋がるようデザインされています。
ICAでは、賑わい軸の入り口に、人・オフィス・都市を繋ぐランドスケープアート「メガフォンプロジェクト」を設置しました。アートを通じて人・建物・環境の間でコミュニケーションを引き出し、その有機的な繋がりを都市へ拡張する、新しい時代のオフィスビルとして機能しています。
フィレンツェ生まれのイタリア人建築家兼デザイナー、アンドレア・ブランジは自書「Weak and Diffuse Modernity」で新たな企業像について、以下のように述べています。
「経済と企業を考えるとき、それは流動的な万物のようなもので、常に新陳代謝を繰り返す動的なシステムである… つまり閉じられた・安定した特殊な形式ではなく、オープン・条件的・流動的なものである… 液体化した企業の可能性は、もはや恐怖や驚きではなく、その活力・エネルギーによって新しいダイナミズムを形成し、関係性・仲介役・コミュニケーションの拡張という利益を生む。」
建物という「ハードウエア」対して、企業と近隣のコミュニケーションという「ソフトウエア」をいかに引き出すことができるのか。ランドスケープデザイナー・JMAと協議の上、このプロジェクトに適応するアートは、権威的・モニュメンタルなものではなく、親しみがあるもの、また実際に触れて遊ぶことができる遊具のような性格が適していると考えました。
「メガホンプロジェクト」はオーストラリアのアーティスト、マドレーヌ フリン・ティム ハンフリーによる「プロジェクト」です。作品本体で遊ぶこと(broadcasting)ができる体験型アートであり、遊び場(sound field)を提供する空間演出と言えます。メガホンプロジェクトは実際、23体の異なる形状をしたメガホンファミリーから構成され、オーストラリアの都市を巡回した後、香港、シンガポール、フィンランド、アメリカを旅してきました。
遊びの空間から生まれる音と声はブランジの提唱する企業の活力・エネルギーとなり得ます。かしこまった従来のオフィスビルとは異なり、アートの役割はプロパティの威厳を示すものではなく、コミュニケーションを引き出すものであり、その関係性・賑わいを企業へ還元しながら「新しいダイナミズム」を都市単位へ拡張するものといえます。
最後に制作・取付の裏側について。実際に触れるアートということで、公園の遊具同等の強度・耐久性・安全性が求められました。JMA・施主・現場と協議の上、あらゆる危険性を配慮した特注仕様で製作・取付を行っています。指を挟む危険性のあるパーツを排除し、ネック部は内部を補強、ベル部はサウンドフィルターと名付けられた意匠性の高いパンチングメタルを新たに溶接しています。また、塩害を最小限に抑えるよう年2回のメンテナンスを行なっています。近くまでお越しの際は、是非お立ち寄りいただき、遊んでみて下さい。