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Adding a Dutch Twist to Japanese Traditional Crafts from W's Perspective
2021.08.24

W大阪の片隅に、ひっそりと存在するW Hotels初の鮨店、鮨うき世​。鮨うき世の内装は、水都大阪を隠喩すべく、海中を浮世(夢の世界)として表現しています。インテリアデザインの世界観をゲストに伝えること。また、W Hotelsのブランディング要素であるBOLD(大胆さ)、WITTY(知性、小生意気さ)、INSIDER(情報力、高いアンテナ)をどう落とし込むかが、このプロジェクトのポイントでした。

鮨うき世の店内は、細いアプローチを抜け、檜の一枚板のカウンターが現れるという細長い空間構成になっています。カウンター背後の壁全体をアート化するという試みですが、細長い空間の特性上、ゲストはアートの全景を見ることができません。「短所は長所」という諺の通り、全景は見えなくとも、視点を動かしながらアートを楽しませるという逆転の発想で、兵庫県在住のオランダ人アーティスト・ロク ヤンセン氏と共にデザインを進めました。

吸音効果が期待できる「ファブリックパネル」を用いることを条件に、国内外のファブリックをリサーチしましたが、既存の素材や印刷技術では、W Hotelsブランドを象徴するような「大胆で知的な」視覚効果を得られないという壁にぶつかりました。ブレイクスルーは、ロク氏が提案した”Lenticular Printing”というアイディアでした。Lenticular(レンチキュラー)とは、平面上にかまぼこのような凹凸加工を施し、 両眼の視差を利用して奥行きやアニメーションの効果を与える印刷技法です。幼い頃に目にした、見る角度によって異なる画像が浮かび上がるポストカードのそれです。

その発想・仕掛けは「大胆で知的」だと確信したのですが、ファブリックの吸音効果と上質な質感は残したい。偶然目に留まった5cm角のサンプルをきっかけに、京都の老舗織物メーカーとのコラボレーションにより、全く新しい織物を一から開発することに決めました。

この特殊な視覚効果をファブリック上で再現できたのは、海外の最新技術でも機材でもなく、伝統工芸である京都の西陣織メーカーの技術力とチャレンジ精神でした。西陣織の金襴織り技術とノウハウを応用し、何十回もの試作を経て、世界初の素材がここに誕生しました。

ゲストの視点で巨大なアートを眺めると、ほんの一部分が切り取られた抽象画のように見えます。歩を進めると、X-ray で描かれた魚やプランクトン・海の波紋が幻想的に浮かび上がり、見る角度によって消えてゆきます。何が描かれているのかイメージしながら、料理人やゲスト同士で対話が生まれる。ばらばらになったピースをパズルのようにつなぎ合わせて初めて完成するその経験・対話・時間こそが作品の意図であり、大阪の食文化を形成する核を再現しています。

施工は、ヨーロッパで宮殿や高級ホテルで用いられる「緞子張り」と呼ばれる方法を用いています。壁紙のように紙で裏打ちせず、織物をそのまま壁に張る工法で、日本に数人しかいない職人の技術により実現できました。上下左右の目地でファブリックを絶妙な力加減で張り、分割された絵柄を合わせていきます。

照明環境も非常に重要です。ライティング プランナーズ アソシエーツ(LPA)にご協力いただき、実寸モックアップで器具や色温度・照明の当て方を検証し、現場での最終調整に挑みました。ファブリックが持つ幻想的でダイナミックな視覚効果を、ライティングの力で昼夜問わず実現することができました。

「大胆で知的な」感性、コミュニケーションを核とする大阪の食文化、そして伝統工芸の革新が一つに融合したこの作品を、鮨うき世でご覧いただければ幸いです。

Projects > W Osaka

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