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Kanazawa Art Project vol.1
2020.11.12

ハイアットセントリック金沢が今年8月にオープンしました。金沢に息づくさまざまな伝統工芸。その裏には決して表には出てこない、さまざまな道具や素材があります。このプロジェクトでは、その隠れた「工芸の美」を再構築させ、コンテンポラリーアートとして昇華させた数々のアートワークを制作しました。今回はその中の一つ「漆濾し紙」を使ったアートワークをご紹介いたします。

天然の漆は細かいゴミやカスなどが混ざっているため、手作業で濾過します。使用する分の漆をガーゼのような薄い紙に乗せ、あめ玉を包むように絞っていきます。濾した紙にはその絞りの動作から生まれる、有機的な絞り模様が残ります。漆器を製作する過程に、このような副産物があったとは私たちも知りませんでした。絞り切った濾し紙は通常そのまま捨てられるものですが、山中漆器の塗師の方に趣旨を説明し、漉し紙を捨てずに貯めて頂くことになりました。

塗師の仕事で使用する漆は、毎日使用する分だけを濾して作業するため、漉し紙はできて一人1日5枚程度。10フロア分のエレベーターホールの壁面全体に敷き詰めるには数千枚の漉し紙が必要です。塗師の仕事の傍ら快くご協力頂きましたが、山中漆器組合の塗師の方々には大変なご苦労をおかけしました。最終的には半年以上かけて何とか必要量を集めて頂きました。漆器で多く見られる黒や茶色、朱色のほか、漆の世界では「白」と呼ばれるベージュや、あまり見かけないカラフルな色も少量ですが集まりました。

集まった漉し紙をどのように再構築するか、実際のモノを並べたり、パソコン上でシミュレーションしたりして、10フロア分の構成を検討しました。グリット状、ストライプ状、あるいは濾し紙を切り貼りして、大きな構図を生み出すなど、集まった数量で実現可能な構成を試行錯誤しました。

濾し紙を貼りこむ下地にもこだわりました。濾し紙は薄く破れやすいため、しっかりと下地に貼り込む必要がありますが、フラットな下地に貼り込むと絞りの質感が無くなります。何度も試作を重ね、下地には揉み加工した大判の和紙を貼り込みました。ホテルの設えとして、質感と耐久性を兼ね備えたアートワークを制作することは私たちの重要な任務です。

現場設置作業。 2.4m角の大きな一枚のアートワークにするため、2分割で貼り込んだパネルを現場へ持ち込み、ジョイント部分を処理しました。

客室階の4階から13階まで、各フロアすべて異なるコンポジションになっております。 伝統的な漆塗りの制作過程の中から着想されたこの濾し紙アートは、その裏にある、塗師の手仕事ややがて完成される美しい漆器を想起させ、単に美しいコンポジションというだけではない、コンセプチャルで奥深いコンテンポラリーアートになりました。 ちなみに、誘導サインの数字の下に設置した矢印は、漆の下地塗り使用されるへらを使用しております。