ICAでは国内外のデザイナーと連携したアートコンサルティングを数多く手掛けてきました。アートコンサルティングとは、インテリアのデザインコンセプト・ブランディング・場所性から空間演出の物語を引き出し、各プロジェクトごとに異なる「アートプログラム」を導くことを意味します。近年は、特に海外のホテルブランド・デザイナーからのお引き合いを多くいただいており、ブランディングやマーケティングの観点からアートを考察することが求められています。
Art program meets branding
近年、ラグジュアリーホテルの日本進出に伴い、アートの存在意義を再定義しなければならないと実感しています。アートは装飾品ではなく、空間演出であるということ。ICAでは、モチーフや表現媒体・技法などの美的価値を突き詰めたものがアート作品であり、ブランディングやマーケティングといった視点からアートの物語を脚本することをアートプログラムとし、空間そのものを演出するように心掛けています。アートが物件のコアバリューを語る、ブランディングの一つとなりえるのです。
Scripting a story of art
今年3月にオープンしたW大阪のプロジェクトでは、アートプログラム構想から始まり、アーティスト3組との契約・制作・調達・施工までを手掛けました。
オランダ・アムステルダムを拠点に活躍するインテリアデザイン事務所・Concrete Architectural Associatesが打ち出したデザインコンセプトは、”The true spirit of Osaka – extravagant simplicity”であり、豪華絢爛でモダンなもの、侘び寂びと伝統的で質素なもの、その両方からインスピレーションを得て大阪の精神性を表現することでした。
Scripting a story of art 2
真の大阪らしさとは何か。ネオンが錯乱する活気あふれる街並みも然り、千利休が生まれた茶の湯の街でもあり、お笑いの聖地でもある。そして何よりも商人が築き上げた人々の起業精神・積極性が、
W Hotelsがターゲットオーディエンスに掲げるディスラプター(創造的破壊者)に共鳴するのではないかと、打合せを重ねながらアートの脚本を書き進めました。
Execution
各客室のアートは、ピクセルアートのゴッドファーザーとして世界中のファンを魅了するeBoyが手掛けました。各客室とはいえ、アートは室内のどこかに隠されています。ゲストがワードローブの扉を開くまでは…
1,000.000ピクセル超の圧倒的密度で描く、唯一無二のアートを扉の裏側に隠すこと。Concrete Architectural AssociatesによるW Hotelsに相応しい遊び心・発想に脱帽しました。
Art Program
制作をスタートするにあたり、大阪のDNAを抽出したアートのガイドラインを作成し、eBoyと協議を進めました。同時にW Hotelsのブランディング要素であるBOLD(大胆さ)、WITTY(ウィットに富んだ)、INSIDER(情報力、高いアンテナ)の文脈を落とし込むよう、マリオット社とデザイナーと協議を重ねました。扉の裏にパワフルなアートを隠すこと、それ自体がアートの「骨格」であり、敷地周辺の商業的・文化アイコンの集積が「筋肉」となり、ディスラプターの感性や知的な笑いが「血液」となる。これがW大阪のDNAを体現するアートプログラムの方向性です。
Design Fabrication
ピクセル作業と同時進行でワードローブ内部のレイアウトを検討し、デザイナーに提案しました。客室タイプによって異なるワードローブの形状に対応すべく、左と右で絵柄が連結し、パノラミックに広がるよう、調整を進めました。
Branding Application
このアートはW Hotelsのコアバリューと、大阪という都市のアイデンティティを体現するDNAであり、ワードローブだけでなくコースターやクッション等、館内のさまざまなアイテムへと展開され、SNSをにぎわせています。アートは装飾品ではなく、空間演出、そしてマーケティング戦略でもあると同時に、ブランディング価値を高めるものであります。このプロジェクトから学んだ教訓を、今後のプロジェクトに活かし、アートの存在意義・可能性を追求していきたいと思います。
Projects > W Osaka
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